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これまで6ページにわたってセッティングの基本をご紹介してきましたが、ご理解いただけたでしょうか。
「試してみたけど、思ったように音が良くならない」という方のために、ここでは、少しでも早く「いい音、求める音」に仕上げるポイントをご紹介したいと思います。
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■スピーカー設置場所の見分け方 |
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スピーカーを設置できる壁面が複数面ある場合は、壁の材質や厚さ、あるいは壁面の構造などを総合して決定しますが、よく分からないとか、自信がないといったときは、実際に試聴して決めてください。
その際、注意してほしいのは、
・次項で説明する「事前に良かれと思われること」は済ませておく
・プレーヤーやアンプ類の設置場所は固定し、同じ条件で比較試聴する
ことです。
そして、設置可能な各壁面のそれぞれ数か所(壁からの距離が異なる場所を含む)にスピーカーを仮設置して音を聴き比べ、その中でベストの音が得られた壁面に決めてください。
試聴のポイントは、「音像の定位が良くない」とか、「サ行が目立つ」といったような細かなことではなく、
・音の骨格がしっかりしている
・瞬発力がある
・しなやかさも有している
などで、これらの点で優れた場所を選ぶようにしてください。
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■事前にできることは済ませておく |
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セッティングは基本的に試聴しながら、「いい音、求める音」にまとめていくものですが、中には、試聴で確認しなくても、「まず、こうしておけば大丈夫だ」という項目があります。
それらは以下に挙げるもので、機器を据え置いたり、結線をしたりする際に済ませておけば、音の判定がしやすくなって、後の作業が楽になります。
ただし、スピーカーの位置決めから始まって、部屋のチューニング、振動対策へとセッティングを進めていく過程で、音があるレベル以上に上がらなくなったときは、その時点で再チェックをする必要が出てくるかもしれないので、そのときはもう一度見直しをしてください。
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ケーブルの接続 |
作業 | ポイント |
電源の極性を合わせる | まず、コンセントの極性を調べ、電源ケーブルに極性表示のある機器は取扱説明書に従う。
極性表示のない機器はテスターでチェックする。
テスターでチェックする際、他の機器とを接続するケーブル類はすべて外しておく(ケーブルを介して他の機器の影響を受なくするため)。
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機器の電源コードを差し込む順序を守る | 信号の流れる順(プレーヤー → アンプ)に、配電盤に近い上手から取っていく。
どちらが上手か分からないなら、電気知識が豊富な人は、コンセントを外して内部配線をチェックすればよい。
ただし、メーカーが音質チューニングする際、それが守られていない機器は、逆にした方が良いときもあるので、音がある程度に詰まったら、試聴で再確認する。
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ケーブルの方向性を合わせる | 接続する向きが表示されているケーブルはその指示に従う。
表示されていないケーブルは、取り敢えず、ケーブルに印刷されている文字の向きを左右合わせておき、音が煮詰まった段階で反対方向も試聴して決める。
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ケーブルにテンションがかからないようにする | 機器間を接続するケーブルは、ピンと張らないように、ケーブルの長さに余裕を持たせる。
スピーカーケーブルはなるべくターミナルの下側から挿入する。
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ビニタイ等は外しておく | ケーブル類を束ねているビニタイや紐類は必ず外し、かつ、ケーブル類がこんがらからないように大まかな線処理をしておく。
きちっと線処理するのは,最終段階でOK。
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スピーカーケーブルの端末処理は済ませておく | バナナプラグやYラグの使用、あるいは圧着スリーブを使う場合は済ませておく。 |
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部屋のチューニング |
作業 | ポイント |
フラッターエコーの対策をしておく | 手を叩いたりして、発生している箇所を確認し、フラッターエコーの発生を確認したら、大雑把でいいから対策をしておく。
壁や床の反射音の調整は、セッティングをしていく過程で、気になった個所からその都度行なうのがよく、フラッターエコーの最終対策もそれと同時進行で行なえばよい。
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リスニングポイントは定在波の影響を受けにくい場所を選ぶ | 音を反射しやすい、しっかりした壁で囲まれた部屋では、リスニングポイントが部屋の中心にならないようにスピーカーの配置を配慮する。 |
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振動のコントロール |
作業 | ポイント |
オーディオボードやスピーカースタンドは予定しているものを最初から使用する |
オーディオボードなどを自作するときは、質量が大きく、叩くとコツコツという音のする、余分な響きの少ない材質を選ぶ。
響きの異なる2種類の板を張り合わせる手もある。
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硬い材質同士が接触している箇所にはあらかじめ緩衝材を入れておく |
緩衝材のサイズや厚さは最終的には微調整する必要が出てくるかもしれないが、適量と思われる緩衝材を入れておく。 |
フェルトを使用する場合の目安 |
接触面の一辺の長さ | フェルトのサイズ |
一辺の長さ | 厚さ |
40cm超 | 3cm角 | 3mm |
20〜40cm | 2cm角 | 2mm |
20cm以下 | 1〜1.5cm角 | 2mm |
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ただし、インシュレーターのように接触面が狭いものは厚さ2mmを全面に貼る。
両面にフェルトが貼れるタイプのインシュレーターは、片面を狭い面積にするのも一考。
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■リフレッシュタイムをとろう |
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会社の先輩が自宅でチューニングをしていたとき、本人は「気に入らなかった箇所が少しずつ良くなってきた」と満足していた矢先、台所にいたオーディオには素人の奥様の「今日の音は変ね」という一言に、改めて聴き直すと、確かに、気になった個所は改善されたものの、音の骨格がずいぶん貧弱になったのに気付いたという話をしてくれたことがあります。
このように特定の箇所(気になる音)ばかりに注意を注いでいると、出ている音全体を把握できなくて、誤った方向に音をまとめてしまうということにつながりかねません。
真剣に試聴をするのは結構疲れるもので、根を詰めて長時間続けると、先輩の例のように、特定の箇所のみに注意が行き勝ちになったり、判断力が鈍ったりします。
それを押して、さらに続けると、どのような対策しても、良くなったのか悪くなったのかの判断がしづらくなってしまうようになることもあります。
そこで私は、連続試聴の目安を2時間くらいとし、ちょっと疲れてきたなと感じたとき、オーディオルームから出て、試聴している音楽が聴こえない場所で、リフレッシュタイムをもつようにしています。
どれくらい続けたら判断力が鈍るかは個人差がありますので、2時間という時間に捉われずに、ちょっと疲れたなと感じたら、オーディオ装置は鳴らしたままで、音のない場所に行って、しばらく気分をリフレッシュしてみてください。
きっと、それまでとは違った聴こえ方がするはずです
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■試聴ソフトを厳選しよう |
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セッティングには、好きなジャンルの曲を選ぶのが良いと言われていますが、必ずしもそうは言い切れないこともあります。
いくら好みの曲であっても、その曲が意識的に強く色付けされていると、その曲にはバッチリ合った音に仕上げることができても、その他の曲には合わないという事態が起こりかねないので、選曲には注意をしてください。
それでは、どのようなソフトを選べばいいのかをご紹介することにしましょう。
まず、セッティングの前半ではシステムの基礎固め=音の骨格作り、そして中盤は楽器の基本的な表情の再現力の向上を目指すわけですが、このような段階では、色付けが少ないのはもちろんですが、
演奏にはアコースティック楽器が使用されていて、かつ低音から高音まで録音されているボーカル曲
が私のお勧めです。
色付けの濃い曲での確認は、セッティングの終盤、それまで使ってきた曲とは異なった傾向の音楽で、音の仕上がり具合を煮詰めていく段階になって登場させればいいと思います。
アコースティック楽器やボーカルを使用する理由は、その発音構造や演奏の仕方でどのような音になるかという、固有の音があらかじめ想定できるので、録音時の色付けの度合いが判定しやすいだけでなく、その固有の音がしっかり録音されているなら、セッティングに際して、音の不自然さを見極めやすく、判定が容易になるからです。
また、選曲も重要なポイントです。
私たちが音を正確に記憶できるのは数十秒だと言われています。確かに、2分、3分と続けて試聴していくと、最初に聴いた音の記憶がだんだん曖昧になってきます。
一方、音の要素として忘れてはならないチェック項目に、過渡的な音への応答性と、それとは相反する余韻のきれいな減衰特性があります。
自然な音で録音されたアルバムはたくさんありますが、通常、セッティングでは使い勝手の良さから曲の頭から演奏するのことが多いです。
そのため、曲の冒頭から数十秒の間に、低音から高音まで録音されていて、かつ、これらの要素を含んだボーカル曲を選べば、効率よくセッティングができます。
電子楽器を主体とした音楽を普段よく聴かれる人も、まず、自然な音で録音されたアコースティック楽器の曲を使ってセッティングすることで、普遍的なベースを作ってから、普段よく聴く曲で微調整を加えていくという手順を踏まれることをお勧めします。
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ここでご参考までに、私が普段よく利用する曲をご紹介したいと思います。
一番よく使うのが、
"JENNIFER WARNES ジェニファー・ウォーンズ"の「The well」というアルバムの
Tr.6 "and so it goes"です。
冒頭のピアノ伴奏で、ピアノらしさ(例えば、ピアノのサイズ感や力感、立ち上がり、余韻の消え方など)をチェックします。
ボーカルが始まると、人間の声らしい質感や音場空間の拡がり、音像の定位など、総合的なチェックできます。
さらにセッティングが進んで、詰めの段階に入れば、彼女の口の開け方がより明瞭に聴こえてくるように調整するのにも使えます。
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ジェニファー・ウォーンズ 「The well」lのジャケ写 |
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また、このアルバムのTr.4の"too late love comes"は
左右の壁面の状態が異なるとき、スピーカーを後方の壁から等距離の位置に設置しても、音像がしっかりと焦点を結ばないとき、聴感でスピーカーの位置合わせをするのに、分かりやすい曲です。
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男性ボーカル曲だと、"ERIC CLAPTON エリック・クラプトン"の「unplugged」をよく使います。
このアルバムは、試聴会などでよく試聴に使われてきたため、多くのオーディオマニアには馴染み深いアルバムです。
収録されている曲は、どれもセッティングに向いていますが、私がよく使用するのは、Tr.4の"tears in heaven"です。
ギターのアコースティックな響き、彼の腹の底から発声するたくましい歌声など、チェックポイントはたくさんあります。
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エリック・クラプトン 「unplugged」のジャケ写 |
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ここにご紹介した曲は、楽器構成のシンプルなものばかりですが、セッティングの基礎固めをする段階では、構成のシンプルな曲の方が、構成の複雑な曲よりも適していると考えます。
そして、これらの曲で音の仕上がりがほぼ満足できる領域に達したら、次に、複雑な構成の曲や好みのジャンルの曲でチェックし、単純な構成の曲では気が付かなかった個所を手直しするようにするのが、確実にいい音に仕上げる近道だと思います。
(ご紹介したアルバムは古いものばかりで申し訳ありません。これらを参考に、お手持ちのアルバムの中からお選びください)
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■ボトルネックを見極めよう |
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セッティングの手法を会得していても、音をうまくまとめられる人と、そうでない人と分かれます。その分かれ道は、手順の違いに因ることがほとんどです。
いくら多くの手法を知っていても、それらをあれこれと闇雲に試行しても、偶然が重ならない限り、音のグレードアップは望み薄です。
うまく「いい音、求める音」に仕上げられるかどうかのカギは、出ている音から一番問題となる個所、つまりボトルネックを探し出し、その原因を順々に潰していくことです。
そのポイントは、これまでも何度かご説明いたしましたように、音の構え、言い換えれば、音の骨格をしっかりさせることから始めることです。
例えば、ジェニファー・ウォーンズの曲で説明するならば、
ピアノはハンマーが弦を叩き、そして、その振動が大きな胴を響かせて、ピアノ独特の音を奏でます。
このピアノのサイズ感、ピーンと張った弦をハンマーで叩く際の瞬発力、大きな筐体から発する豊潤な響きなど、まず、ピアノらしさを引き出すことを目指してください。
つまり、音の全体像を形作ることから始め、セッティングを進めていく過程で、徐々に細部を詰めていくのが基本手順です。
また、ジェニファー・ウォーンズの声ですが、
人の声はその発音構造からくる、柔らかさやふくよかさ、あるいは力強さを併せ持っています。特に、彼女のような一流の歌手の歌声は、腹の底から湧き出すような芯の太さがあります。
まず、こういったポイントをうまく引き出す方向でまとめていくのがいいでしょう。
ちなみに、ピアノがピアノらしい音に仕上がっていくと、ジェニファー・ウォーンズの声も自然と人の声らしくなっていくのが、通常、経験する傾向です。
なお、セッティングに慣れていない人は、的確にボトルネックを見つけ出すのはむずかしいかもしれません。
現役時代、後輩からセッティングをマニュアル化してほしいとの要望が出たことがあり、トライしてみましたが、完成できませんでした。
というのは、1,000のオーディオ環境があれば、その手順は1,000通りあって、その場その場で出ている音は異なり、手順も変わってくるからです。
そこで、部屋にオーディオ機器を持ち込んで、後輩たちと一緒に音を聴き、この場合はこういった対策をするといった実地研修をしたことがありました。
つまり、出ている音から、オーディオ機器が置かれている環境におけるボトルネックを探し出す以外に方法がないのです。
慣れないうちは誤った判断をすることがあるかもしれませんが、
・初めは骨格作り
・中盤は楽器の基本的な表情の再現力アップ
・終盤は細部の仕上げ
と、セッティングの段階ごとに目標を定めて、施した対策が改善目標と異なったときは、対策を元に戻し、目標とする方向で改善されたときは、次のボトルネックを探す、というふうに、カットアンドトライを繰り返していけば、自ずとセッティングのノウハウが身に付くものと思います。
あまり肩肘を張らずに気軽に始められることをお勧めします。
もしも、どうしても思うように音が良くならないとお困りの方はこちらをご覧ください。
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